■The Great Debaters / グレイト・ディベイターズ | ツボヤキ日記★TSUBOYAKI DIARY

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■The Great Debaters / グレイト・ディベイターズ

●間もなく公開の「アメリカン・ギャングスター」のデンゼル・ワシントンが次に選んだ作品は、自らが監督する2作目となる「グレイト・ディベイターズ」。監督作としての前作「アントワン・フィッシャー 君の帰る場所」では脇に回っていたが今作では主演。この映画も前作同様に実話に基づいた作品となった。悪人の後にはこういう設定をやってのけるのも彼の力量でありますナ。





物語は1935年…ジム・クロウの時代にはじまる。舞台は黒人差別の色濃く残るテキサス州マーシャル。場所はミシシッピー川の西にあるという1873年に黒人のために設立されたワイリーカレッジ。この大学の教授メルヴィン・B・トルソンは、学生たちの士気を高めるために、この大学初の討論クラブ(以下、ディベートチーム)を作り、訓練し、ナショナル・チャンピオンシップの場に出場するチャンスを得るまでに至る、という話だ。

後にメルヴィン自身が詩を書き、小説を手掛けている辺りからも言葉の力を信じ、その扱いに長けた教授だったはずで、彼の巧いリードで学生はそれぞれの個性をもって、ディベートの面白さに気づきはじめ、その能力を養っていく。小さな南部の黒人だけの大学の中から結成されたディベートチームは、やがて他の黒人大学のディベートチームと対戦し、ぐんぐんと力をあげていく。





一方、当時の差別の厚い壁の中でメルヴィンの指導方法やディベートに望む学生の存在までもが周囲の社会から批判の的になっていく。この辺りの背景を緩和させる役目を巧い巧いフォレスト・ウィテカーが受け持っているようだ。
彼が演じているジェイムズ・ファーマーは、ワイリー大学の学長と思えるが如何なものだろう。その息子らしいのがディベート・チーム最年少のジェイムズ・ファーマー,Jr。演じるのはデンゼル・ウィテカー(なんと凄い、いい名だ!)。

実はこの物語のハイライト部分に多分、ジェイムズ・ファーマー,Jrのディベート場面があるはずなのだ。いや、なければいかん。というのは、父親(だと思う)であり、ワイリー大学学長であろうはずのジェイムズ・ファーマーをなんともインテリジェンス溢れる笑みをたたえた好人物としてウィテカーが好演している模様だが、この人物、実際には1886年に農夫(奴隷)の息子として生まれている。1918年ボストン大学でアフリカ系アメリカ人25人が博士号を得、テキサス州では初の博士号を取得した黒人だったそうだ。
アラム語、フランス語、ドイツ語、ギリシャ語、ヘブライ語、ラテン語のできる神学者であり教育者であった彼は、後にハワード大学、ラスト大学、そしてワイリー大学の学長を勤めたはずの人物だった。白人警官役のジョン・ハードとのやり取りも興味深い。






その息子だと思われるのが、ジェイムズ・ファーマー,Jr。小柄のふっくらした面立ちでチームで一等幼い彼は、物語の中で1920年生まれ。小学校でいくつかの等級をスキップした優れた学生で、14才でハイスクールを卒業し、ワイリー大学に入学していた。だから童顔なわけだ。で、このジュニアこそ、アメリカ公民権運動の代表ビッグ4(マーティン・ルーサー・キング,Jr、ホイットニー・ヤング、ロイ・ウィルキンズ)の一人になっていく。そう、ケネディ政権発足下の1961年、敢行されたフリーダム・ライド(ロバート・ケネディ司法長官スタッフ同行)のリーダーだった。


John Lewis, Whitney Young, A. Philip Randolph, Martin
Luther King Jr., James Farmer and Roy Wilkins in 1963

Left to right: Whitney Young, Jr. (Urban League); Martin Luther King, Jr. (SCLC); John Lewis (SNCC); Rabbi Joachim Prinz (American Jewish Congress); Dr. Eugene Carson Blake (National Council of Churches); A. Philip Randolph ; President Kennedy ; Walter Reuther (United Auto Workers); and Vice President Johnson (behind Reuther).


Martin Luther King, Jr.;President Johnson; Whitney Young;James Farmer


Civil rights leaders seated around table [from left] Bayard Rustin; Jack Greenberg, Director of Counsel of NAACP Educational and Legal Defense Fund; Whitney Young, Jr., Director of the National Urban League; James Farmer, National Director of CORE; Roy Wilkins, NAACP Executive Secretary; Dr. Martin Luther King; John Lewis, Chairman of the Student Nonviolent Coordinating Committee, and A. Philip Randolph, Chairman of the National Negro Labor Council.

さて、話を映画に戻すと、ワイリー大学のディベート・チームは、デンゼル・ウィテカー演じるジェイムズ・ファーマー,Jr、ネイト・パーカー演じるヘンリー・ロウ、ジャーメイン・ウィリアムズ演じるハミルトン・バーゲスの男子学生3名に女子学生ジャーニー・スモレット演じるサマンサ・ブックの4人で結成される。

このチームは、メルヴィンに討論に向けての徹底的なリサーチや討論のテクニックを教えられ、鍛えられていく。差別社会の中で自分たちの意見をどう相手に伝えるか。説得するか、指摘するか、打ち崩すか、共感を呼ぶか…彼等は日増しに実力を高めていく。そして次々と他の黒人大学のディベート・チームを打ち負かしていく。 白人大学である南カルフォルニア大学、ジョージア州アトランタのモアハウス大学(男子校)などと討論する誘いを受け、ワイリー大学チームは、その力を益々発揮していく(実話ではそうなるが映画は省かれているかも…)。やがて国中が注目するナショナル・チャンピオンシップの場において、全米No1だったハーバード大学との対戦が繰り広げられる…。

この映画の製作にあたり、ワイリー大学のスタッフによる事前調査で、メルヴィンの討論クラブのチームは15年にわたり、75回の議論の内、負けたのはわずか1回のみだったことが判明したという。その一回とは、さて、どの大学との対抗戦だったのかな。ま、そんなことぁ、あまり気にせずに見たいもの。尚、映画撮影の大部分は、ワイリー大学のキャンパスをはじめとして、ルイジアナ、ハーバード大学で行われた模様。








この映画を見ながら、歴史を紐解けばそこには終わったはずの南北戦争と、64年の公民権運動の大きな狭間に位置する物語(実話)でありながら、黒人差別の政治的解決への糸口に繋がっていくのではないか。
人は生まれ、育ち、その育ちの中から変革の意識を受け継ぐ者は、さらに時代の中で新たに生まれていくものだと、あらためて実感するのかもしれん。

討論、演説…教会でのコール&レスポンスの様子…言葉は使い方で生き物のように相手の心に飛び込んでいく。放つのは人であるが、人の全身から迸る言葉は、コントロールすることで静かに沁み渡り、勢いを増して相手を囲い込む。
因みに、映画の中でのちょっとした会話にリズムを見出せば、ヒップホップにまで流れ込んでくるのではないか…言葉の力。今から70年以上も前のアメリカの若者たちのディベート…唸ってしまうゾ。そうした経験が積み重ねられ、体言化され、社会が変化していくということが今、この時期に強く迫ってくるではないか。
映画は、オプラ・ウィンフリーのハーポ・フィルム、トッド・ブラックとジョー・ロスによって製作。脚本はロバート・エイゼルによって書かれた。差別の場面はダイレクトに描かれる模様。




ジム・クロウ=1935年当時のアメリカとは、ジム・クロウの時代ともよばれる。
アメリカで公民権運動が活発になるまでアメリカ南部の州法に「ジム・クロウ法」(Jim Crow law)があった。
南北戦争後、アメリカの北部の州は奴隷廃止を掲げたが、南部は奴隷制維持を掲げ続けた。当時、南部は農園などが多く、黒人は労働力として欠く事ができなかった。そこで奴隷制をなんとか維持するために黒人取締り法を制定。これは1876年から1964年まで存在した州法であり、映画「Ray」でも見ることができた黒人の一般施設利用を制限した法律。これを総称してジム・クロウ法という。

例えば、アラバマ州法では、白人の女性看護師がいる病院には黒人男性は患者としても立ち入ることができない。バス停は白人用とカラード用(有色人種用)の2つの待合所があり、発券売り場も白人専用窓口と有色人種専用窓口があった。白人と有色人種が同じレストラン内で食事ができることは違法にさえなっていた。

フロリダ州法では、白人と黒人の結婚は禁止。先祖4世代前までに黒人の血が一人でもいれば「黒人」と認知。黒人と白人が同じ部屋で夜を過ごせば、犯罪。最高12ヶ月以上の禁固刑、もしくは500$(当時)の罰金。白人学校と黒人学校は別。
ミシシッピ州法の場合は、出版物、印刷物、あるいは公共場での演説などで社会的平等や異人種間結婚を奨めたと認められれば6か月以下の懲役、もしくは$500以下の罰金。その他、各州が過剰な投票税等で黒人の投票権を阻止する行為が後を絶たなかった。
1964年7月2日、公民権法(Civil Rights Act)制定し、南部各州のジム・クロウ法は即時廃止となった。 (2007年/製作国アメリカ/アメリカ公開2007年12月/日本公開未定)



▲Trailer


▲Official site
オフィシャルでもTRAILERはご覧になれます。

●Directer:Denzel Washington デンゼル・ワシントン
●Screenwriter:Robert Eisele ロバート・エイゼル
●Cast:Denzel Washington デンゼル・ワシントン Forest Whitaker フォレスト・ウィテカー Nate Parker ネイト・パーカー Jurnee Smollett ジャーニー・スモレット Denzel Whitaker デンゼル・ウィテカー Jermaine Williams ジャーメイン・ウィリアムズ  Gina Ravera ジーナ・ラベラ John Heard ジョン・ハード Kimberly Elise キンバリー・エリス Devyn A. Tyler ディヴィン・A・テイラー J.D. Evermore J・D・エバーモア